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第2話・会ってみない? その4

Author: さぶれ
last update Last Updated: 2025-04-18 23:00:03

 誕生日会当日。

 六月生まれのお誕生日の小倉昌磨君と、羽鳥聖也君を教卓の前に呼び、手作りの王冠を被せた。おめでとう、とお祝いをして、私がピアノを弾き、みんなでハッピーバースデーの歌を歌った。

 誕生日会は滞りなく進行し、本日の給食もお誕生日用の特別給食で、みんなでわいわい楽しく頂いた。お誕生日の特別メニューは、『ポテト』や『唐揚げ』や『ハンバーグ』等、特に子供たちに人気のおかずが中心に提供される。

 どうしても通常の給食は栄養バランスをメインに考えられているから、味が苦手で残してしまう子もいるけれど、特別メニューは誰も残さない。普段から頭を悩ませ、美味しくて栄養のある給食を作って下さる職員の方々には、感謝しかない。

 子供たちの笑顔が見る事が出来て、私は幸せ。

 そんな給食の時間を終え、一歳児や二歳児のお昼寝も終わり、通常保育の子供たちは午後二時のお迎えも終わり、大きな事件や子供たちが怪我をする事もなく、何事も無く時間が過ぎた。

 しかし事件は、夕方遅くに起こった。

 預かり保育の当番だったので退勤時間の午後五時まで、指定の教室で子供たちを見ていると、園に電話がかかって来たのだ。夕方は職員が減るので、電話対応できる人が少なく、長いコール後に取る事も多い。人手が少ないのだ。

 職員室に居ないので、随分長いコールが鳴っているな、と思っていたら、さくら幼稚園主任の大林先生が慌てて教室内に入って来た。

「清川先生っ、すみませんがお電話対応頂けますかっ。大変です!」

「どうされましたか!?」

 血相を抱えて飛び込んで来た大林先生に声を掛けた。御年五十歳のベテラン教員の大林先生は、この園の主任を務めていらっしゃる。

 彼女が黒いおかっぱの髪を振り乱しながら私に言った。「羽鳥聖也君のお母様からお電話で、清川先生に代われと大変な剣幕で…」

「羽鳥さん?」

 思わず眉根を寄せ、険しい顔を作ってしまった。また、聖也君のお母さんだ。

 彼女からなにを言われるのだろう。心当たりがなにもない。

 ここ暫く彼女の名前を聞くだけで、胃がキリキリと痛む。しかもベテラン主任の大林先生が血相を変えて飛んでくるなんて、ただごとではなさそう。電話を受ける前から嫌な気分になる。

 すぐ行くと伝え、大林先生にその場を任せて職員室へ急いだ。数分で終わる電話ならともかく、長時間に渡りそうな予感がする。ああもう嫌だ。

「お電話代わりました。清川です」

『アナタ、ちょっとどういうつもりッ!?』

 ヒステリックな声が受話器の向こうから聞こえてきた。

 この声を聞くだけで胃が痛み、辞めて行った別の教職員の顔が浮かぶ。彼女は聖也君が入園してから、何人もの先生を辞めさせてきた。最初は新米教師を半年足らずで、次に勤務年数三年ほどの教員、そして去年、年中組の補佐をしてくれた割と歴の長い補助教員、そして年中の担任をした同期が、結婚を機に退職、という形でさくら幼稚園を去った。

 今年は私の番なのか――

 

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     「え――っ、ありえなくないですか!?」  月曜日の朝、園に着いてすぐ開口一発。理世ちゃんの文句から始まった。  それは、彼女に日曜日のこと――つまり、I.Nさんが待ち合わせに来なくてゆうた君とデートすることになったと伝えたからだ。「まさかのブッチですか。信じられないっ」 理世ちゃんがめちゃくちゃ憤慨している。「眞子先輩。ちょっとその男のプロフ、見せて頂いてもいいですか!?」「これなんだけど」 ものすごい剣幕なので、私は断れずにLove Seaアプリを開いて理世ちゃんに渡した。「あ――っ、やっぱり!」「どうしたの?」「I.Nさん、アプリ退会してます。急なブッチしたりする人ってワケアリが多いんですよ」「ワケアリ?」「ええ。例えば、奥さんや彼女がいるのに出会い目的で独身と偽ってアプリを利用して、それが伴侶にバレるパターン。それはもう、強制終了ですよ」「きょ、強制終了…」 それは、離婚や別れが待っているということね。「退会までやっているので、今回の場合は違うと思いますが、こういう人もいます。待ち合わせした女性が好みじゃ無かったら、平気でブッチしちゃうんです。あ、眞子先輩は綺麗だから、絶対大丈夫ですけど!」「そっかぁ。やっぱりアプリで素性の知らない人っていうのは、怖いんだね」 胆に銘じておこう。「すぐ退会する人って、意外に自分のSNSの方で連絡ができるようにしているから、多分連絡先突き止められると思うんですよ。ちょっと待っていて下さいね」 理世ちゃんは自分のスマートフォンを取り出し、スゴイ勢いで画面を打ち始めた。トトトト、タタタタ、と画面を高速タップする様子がすごい。一体何をしているのだろうかと、彼女が見せる百面相を近くで見守った。「先輩、I.Nさんってこの人ですか?」 やがてなにか見つけたらしく、画面を差し出して来た。「あっ! そう! この人

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     彼は私の容姿を知らないけれど、私は彼の容姿を知っている。ああやって手を振っていれば、きっと私が見つけてくれると思っての事だろう。「ゆうた君!」 私は彼に駆け寄り、挨拶した。「Mです、初めまして。今日は誘ってくれてありがとう」「えっ。君が、Mちゃん?」 ゆうた君が目を丸くした。「うん、そうだよ」 初対面の人と会ってお話するなんて生まれて初めての事だから、ドキドキして目線を少し伏せた。気恥ずかしくてまともに顔を見ることができない。「Mちゃん、すげー綺麗でびっくりした! ラッキーって言っていいのかな?」 笑いながらそう言ってくれたので、思わず顔を上げて見ると満面の笑みのゆうた君がいた。 プロフィール画像そのままだ。ふわふわと柔らかそうな手触りの髪の毛、くりっと大きな目、人懐っこそうな雰囲気、そのまま。偽りなく登録し、嘘をつかない正直な人なのだと思った。「じゃ、行こう!」 先ずは腹ごしらえだよね、と、連れて来てくれたのは、何とスカイツリーの近くにあるムーミンカフェだ!「可愛いー♡」 思わずハートマークを語尾に付けてしまう程、店内はムーミンで溢れていた。 入る前からお洒落な店舗外観、溢れるムーミングッズ、壁一面に描かれたムーミンの仲間たち! レイクタウンアウトレット駅でI.Nさんと待ち合わせていた時とは雲泥の差のテンションになり、笑顔が弾けた。「急いで予約したんだけど、早い時間だから空いててすんなり入れて良かったよ」 わざわざ予約してくれたんだ、と急な約束だったのに、ちゃんとエスコートしてくれようとする気持ちが嬉しかった。 現在午前十一時を少し過ぎた所だ。一時間前の悲しい気持ちから一転、ゆうた君のお陰で楽しい気持ちになった。ホント、彼に感謝!「Mちゃん何食べる?」「――あの、眞子です。Mじゃなくて、清川眞子と言います」 名前を知って欲しくてつい名乗ってしまった。…いいよね。ゆうた君、いい人だもん。「そ

  • 婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~   第3話・まさかの… その1

     瞬く間に時は過ぎ、一週間なんてあっという間に経ってしまった。今日はI.Nさんとの約束の日。埼玉県越谷市まで東京都足立区から出向く。うーん、やっぱり遠い!  電車に揺られ、予め調べておいた乗り換えアプリで最短移動手段を反芻しながら、約束の十分前にレイクタウンアウトレット駅改札口へ到着。  私の目印は、白のレースのフリルトップスに、黒基調の小花柄のロングスカート、黒のサンダル、ブラウンのリボンが付いた大きめのカゴバックだと伝えてある。見れば解ると思うんだけどな。 Love Seaアプリを開いて、到着しました、と送った。I.Nさんは黒の七分丈のテーラードジャケット、白のカットソーにベージュのパンツを合わせた服装で行くと言っていた。お洒落カジュアルな感じかな。どんな人なのか、待ち合わせの時間が刻一刻と迫る度に、ドキドキと胸が高鳴る。 初めて会う人だけれど、自撮りの写真通り素敵な人なのかな?  犬好きみたいだけれど、会話、ちゃんとついていけるかな?  幼稚園ではパンツルックが多いからあまりお洒落できないし、初対面の人と会うのだからと、今日は張り切ってタンスから洋服引っ張り出して、お洒落したけれど、変に思われないかな? 緊張しながら待つ事十五分。「あの、すみません」 きた――!  「この駅に行きたいのですが、乗り換えが解らなくて、教えて頂いてもいいですか?」 声を掛けて来たのは、初老の男性だった。まさかこの人がI.Nさん――なワケないか。乗り換え方法聞いているもんね。「はい」 見せられた地図を見て、乗り換えの為に降りる駅を教えると、どうもありがとう、と会釈された。  なんか拍子抜け。 そしてまた緊張感を持って待つ。待つ。待つ。  三十分待った。  でも、彼は現れない。 四十分。  五十分。  一時間…。 その間にLove Seaアプリで何度かメッセージを送ったけれど、返事がない。なにかあったのかな? 午前十時を過ぎたので、I.Nさん

  • 婚活アプリで始まる危険な恋 ~シンデレラは謎深き王に溺愛される~   第2話・会ってみない? その9

     それから暫くは平和に過ごした。羽鳥聖也君のお母さんからの攻撃も無く日々の業務に追われた。私は年長担当なので、そろそろ八月に開催されるお泊り保育の準備や内容をしっかりと落とし込みしなくてはいけない。大体テンプレートどおり大きな予定・行事は決まっているけれど、晴天の場合のメニュー、雨天の場合のメニュー、それぞれを考えておかなくてはいけないし、やることたくさん!  それに加えて今月末からプール授業が始まる。全クラスのローテーションは組み終わっているから、園のプール準備をして、来月は七夕まつりがあるから、配布用の笹や飾り付け、景品の準備などをやる。 おまつりに出店するジュース・お茶などのドリンク販売の店、キャラクターのおめんを販売する店、くじ引きができる店、駄菓子等のお菓子を売る店、的当てやヨーヨー釣り等ができる露店、さくら幼稚園は色々な模擬店で子供たちを楽しませる。近隣住民の小学生も遊びに来てくれて(大体OBか通園の御兄弟が多いけど)お店の準備が結構大変だ。  そのため、年間で大きなイベント毎にお手伝いをしてくれるお母様を募集し、必ず一人一回はどこかのお手伝いを割り当てる。特に大変なのが七夕まつりと運動会。やってくれる人が少なくて、じゃんけんで負けたお母さんが当番に当たる。子供たちと一緒にお店を回ったり、運動会は子供たちの活躍を見たいものね。気持ちはわかる。 そして、来月の七夕まつりはお手伝いに羽鳥恵里菜さんが当番に当たっている。立候補ではなく、じゃんけんに負けたのだ。しぶしぶ仕方なくの当番なので、どんな文句を言われるかわからない。ああ。考えるだけで胃が痛い。 まあでも、今から来月の事を考えて憂鬱な気分にならなくてもいいかな。  今日はI.Nさんから、来週の日曜日にレイクタウンアウトレットの最寄り駅で午前九時に待ち合わせしよう、会えるのが楽しみ、とメッセージが入った。 もうすぐかぁ。いよいよI.Nさんと会うんだなぁ。  どんな人だろうと思っていると、もう一通メッセージが来た。I.Nさんではなさそうだ。このアイコンは…。――こんばんは、Mさん元気? ちょっと仕事合間に連絡してみたよー。最近食欲

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